為替手形の収入印紙は誰が貼るべきか?

2022年8月18日

収入印紙が貼ってない為替手形を受け取ったことはないですか?

実務上ではよくある話なのですが、収入印紙は貼らなくていいのか?本来誰が貼るべきなのか?
といった点をまとめてみました。

収入印紙を貼らない会社の理屈

収入印紙が貼ってない為替手形には、100%「振出人」の記名がありません。
「引受人」の記名はされています。

つまり実際に手形を作成したのは引受人ですが、

振出人に記名をしていないので、振出人には該当せず、収入印紙を貼る義務はない。

というのが、収入印紙を貼らない会社の理屈らしいです。
(私は先方の会社の経理の人からこの理屈を言われたことがあります)

これ本当でしょうか?ちょっと調べてみましょう。

為替手形の印紙税の納税義務者は誰か?

タックスアンサーに為替手形の納税義務者について記載があります。

No.7103 約束手形又は為替手形

約束手形又は為替手形は印紙税額一覧表の第3号文書に該当し、手形金額に応じて印紙税が課税されます。手形金額の記載のない手形は振出しのときは非課税ですが、その手形に後で金額を補充したときは、その補充をした人がその手形の作成者とみなされて納税義務者となります。

また、振出人の署名のない手形で、引受人やその他の手形当事者の署名のあるものは、引受人やその他の手形当事者が、その手形を作成したことになります。

分かりにくいですが、要約すると「手形に金額を補充(記入)した人が納税義務者」です。

振出人の署名のない手形についても後段に記載がありますが、手形の作成者(=納税義務者)は引受人なのか、その他の手形当事者なのか具体的な判定基準は書かれていません。
この段は単に、何らかの事情で手形の作成者(=納税義務者)が分からなくなったとしても、印紙税の納税義務がなくなる訳ではなく、手形当事者の誰かが印紙税を納税しなければならない旨を定めているにすぎないと思われます。
ですので、振出人の署名のない手形であっても手形の作成者(手形に金額を記入した人)が分かっていれば、その人が納税義務者です。

収入印紙を貼らない会社の理屈を振り返る

では改めて収入印紙を貼らない会社の理屈を振り返ってみます。

振出人に記名をしていないので、振出人には該当せず、収入印紙を貼る義務はない。

納税義務者かどうかは、振出人に記名をした人ではなく、手形に金額を記入した人なので、この理屈は間違っています。
たとえ振出人に記入しなくても、為替手形に金額を入れて作成したなら収入印紙を貼る義務があります。

実務上の対応はどうすべきか

収入印紙の貼ってない為替手形が届いたら、収入印紙を貼るように先方に連絡して、貼ってもらうのが正しい処理になります。

だた、先方に連絡すると、先に紹介した間違った理屈を振りかざしてきます。
それを丁寧に説明して間違いであることを分かってもらっても、「昔からこの方法でやっているので変えられない」「全ての取引先にこの方法でやっているので特別扱いはできない」ということを言われて貼ってもらうことはできません。

裁判を起こせば勝てるとは思いますが、それをすれば裁判のコストに加えて、その取引先の売上は全てなくなるでしょうから割にあいません。
結局泣き寝入りするしかない、という悲しい結論になります。

逆に言うと、相手が泣き寝入りするしかないのが分かっているからこそ、平気で収入印紙を貼らずに手形を送りつけて来るわけです。

若い経理担当者へのお願い

若い方の中には、こういった事情を知らず、先輩から誤った理屈だけ教えられて、収入印紙を貼らずに手形を作成している人も多くいると思います。
しかしそれは、自社で当然負担すべきコストを取引先に押し付ける行為だということを知っておいて下さい。

社長や先輩に反抗して収入印紙を貼れ、とは言いませんが、正しい知識を身に着け、自分が偉くなった時、正しい行動ができるように準備をしておきましょう。

と、ここまで書いて、そいうや経済産業省が2026年をめどに手形を廃止するって言ってたことを思い出しました。
なんだ、もうすぐこの問題も雲散霧消じゃないですか。
紙の手形に誰が収入印紙を貼るかなんて、令和の話題じゃなかったですね。